裁判に勝つことと、実際に回収することは別の問題です
売掛金、請負代金、業務委託料、貸付金、損害賠償などを請求する場合、裁判で勝訴判決を得ても、相手方に差し押さえられる財産がなければ、実際に金銭を回収できないことがあります。
訴訟には一定の時間がかかります。
その間に相手方の預金が払い戻されたり、不動産が処分されたり、他の債権者から先に差押えを受けたりすると、判決取得後の強制執行が困難になる可能性があります。
仮差押えは、このような事態に備え、裁判の判決が確定する前に、相手方の財産を暫定的に保全する手続です。
ただし、仮差押えをすれば必ず回収できるわけではありません。
請求の根拠、財産の内容、相手方の資力、担保額、費用などを確認し、申立ての必要性と実効性を検討する必要があります。
仮差押えとは
仮差押えは、金銭の支払いを目的とする債権について、将来の強制執行が困難になるおそれがある場合に、債務者の財産を暫定的に保全する民事保全手続です。
通常の差押えによる強制執行を行うためには、確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書、公正証書などの債務名義が必要です。
これに対し、仮差押えは、債務名義を取得する前に申し立てることができます。
訴訟提起前だけでなく、訴訟中に申し立てることもあります。
仮差押命令が発令された後も、請求権の有無を確定するためには、原則として本案訴訟等を進める必要があります。
仮差押えを検討する主な場面
- 取引先が売掛金や請負代金を支払わない
- 取引先の経営状態が急速に悪化している
- 相手方が事業を停止し、連絡が取れなくなりつつある
- 相手方が預金や不動産を処分しようとしている
- 他の債権者からも請求を受けていることが判明した
- 内容証明郵便を送った後、相手方が財産を移す可能性がある
- 貸付金の返済を受けられず、相手方に資産があることが分かっている
- 契約違反による損害賠償を請求したい
- 訴訟には勝てる可能性があるが、判決まで財産が残るか不安がある
単に相手方が支払いを拒んでいるというだけで、仮差押えが認められるとは限りません。
請求の根拠と、将来の強制執行が困難になるおそれを具体的な資料によって示す必要があります。
仮差押えの主な要件
被保全権利
仮差押えの対象となるのは、原則として金銭の支払いを目的とする債権です。
例えば、次のような請求が考えられます。
- 売掛金請求
- 請負代金請求
- 業務委託料請求
- 貸金返還請求
- 売買代金請求
- 損害賠償請求
- 保証債務履行請求
契約書、発注書、請求書、振込記録、メール、チャット、納品資料などにより、請求権の発生と金額を疎明します。
保全の必要性
仮差押えをしなければ、将来の強制執行ができなくなる、または著しく困難になるおそれがあることを示す必要があります。
例えば、次のような事情を検討します。
- 相手方の資金繰りが悪化している
- 支払停止や事業停止の兆候がある
- 複数の債権者から請求を受けている
- 主要な財産を売却しようとしている
- 預金や売掛金以外に目立った資産がない
- 支払いを免れる旨の発言をしている
- 所在地や代表者との連絡が不安定になっている
抽象的に「財産を隠すかもしれない」と主張するだけでは不十分です。
相手方の財産状態や行動を示す資料を可能な範囲で収集します。
仮差押えの対象となる主な財産
預金債権
債務者が金融機関に対して有する預金債権を仮差押えする方法です。
申立てには、原則として対象となる金融機関や支店を特定する必要があります。
仮差押命令が金融機関へ送達された時点の預金残高などによって、保全できる金額が異なります。
口座が存在していても残高が少ない場合には、十分な保全効果を得られないことがあります。
不動産
相手方が所有する土地・建物を仮差押えする方法です。
仮差押命令が発令されると、原則として仮差押えの登記がされます。
ただし、既に抵当権などが設定されている場合には、不動産の評価額と担保権の残額を確認し、実質的な余剰価値があるかを検討する必要があります。
売掛金・請負代金その他の債権
債務者が取引先に対して有する売掛金、請負代金、委託料などの債権を仮差押えする方法です。
この場合、債務者の取引先が第三債務者となります。
対象債権の発生原因、取引先、契約関係などを特定する必要があります。
主要な取引先に仮差押命令が送達されることにより、債務者の事業へ影響が生じる可能性があるため、必要性と相当性を慎重に検討します。
動産
機械、商品、在庫品その他の動産を対象として仮差押えを検討する場合もあります。
もっとも、所在、所有関係、換価価値、執行費用などの問題があるため、預金や不動産などと比べて実効性が低いこともあります。
仮差押えの申立てに必要な資料
事案によって異なりますが、一般に次のような資料を準備します。
- 契約書、発注書、注文書
- 見積書、納品書、請求書
- 相手方とのメール、チャット、議事録
- 入金・未入金の状況が分かる資料
- 催告書、内容証明郵便
- 相手方が支払いを認めた書面やメッセージ
- 相手方の登記事項証明書
- 対象不動産の登記事項証明書
- 預金口座や取引先に関する資料
- 相手方の経営悪化や財産処分を示す資料
- 請求額の計算書
仮差押えは、通常の訴訟より短期間で判断されるため、申立ての段階で請求権と保全の必要性を説明できる資料を整理することが重要です。
仮差押えの手続の流れ
- 法律相談・資料確認
請求の内容、証拠、相手方の財産、財産散逸のおそれなどを確認します。 - 対象財産の検討
預金、不動産、売掛金その他の財産のうち、特定可能性、価値、費用、事業への影響などを比較します。 - 申立書・疎明資料の作成
被保全権利と保全の必要性を説明する申立書を作成し、資料を提出します。 - 裁判官との面接・追加資料への対応
裁判所から質問や追加資料の提出を求められることがあります。 - 担保額の決定
裁判所が仮差押命令を発令する条件として担保提供を命じる場合があります。 - 担保の提供
裁判所が指定する期限までに、供託または支払保証委託契約などの方法によって担保を提供します。 - 仮差押命令の発令・執行
対象財産に応じて、金融機関や第三債務者への送達、不動産への登記などが行われます。 - 本案訴訟・交渉
請求権を確定するため、訴訟、和解交渉その他の手続を進めます。 - 本差押え・担保取消し等
債務名義を取得した場合には、必要に応じて強制執行へ移行します。事件終了後は、事情に応じて担保取消し・取戻しの手続を行います。
担保について
仮差押えは、判決によって請求権が確定する前に相手方の財産を制限する手続です。
そのため、裁判所から担保の提供を命じられるのが一般的です。
担保額は、請求額だけで一律に決まるものではありません。
対象財産、請求内容、疎明の程度、相手方に生じ得る損害などを踏まえて裁判所が決定します。
担保は、現金を供託する方法のほか、裁判所が認める場合には、金融機関等との支払保証委託契約を利用できることがあります。
担保を所定の期限内に提供できなければ、仮差押命令は発令されません。
また、担保は事件が終了しただけで自動的に返還されるものではありません。
勝訴、相手方の同意、権利行使催告など、事情に応じて担保取消し・取戻しの手続が必要です。
仮差押えの注意点
仮差押えをしても回収が保証されるわけではありません
仮差押えた財産の価値や預金残高が請求額に足りない場合があります。
また、本案訴訟で請求が認められなければ、仮差押えを維持して回収することはできません。
対象財産を特定できる資料が必要です
相手方に財産があると思われても、金融機関、支店、不動産、取引先などを十分に特定できなければ、申立てが困難なことがあります。
不当な仮差押えには損害賠償のリスクがあります
請求に理由がないにもかかわらず仮差押えを行い、相手方に損害を与えた場合には、損害賠償を求められる可能性があります。
相手方の事業へ大きな影響が生じる財産を対象とする場合は、請求の根拠と保全の必要性を慎重に検討します。
相手方の倒産手続による影響があります
相手方について破産、民事再生その他の倒産手続が開始された場合には、仮差押えの効力やその後の回収方法に影響が生じます。
仮差押えをしただけで、他の債権者に常に優先して回収できるわけではありません。
相手方に知られる前の準備が重要です
仮差押えは、通常、申立て前に相手方の意見を聴かずに審理されます。
一方、内容証明郵便や訴訟提起によって相手方が請求を知った後に財産を処分する可能性もあるため、通知や訴訟提起の前に仮差押えの要否を検討することがあります。
ただし、すべての案件で通知前に仮差押えを申し立てるべきというわけではありません。
費用、担保、証拠、回収可能性を踏まえて判断します。
仮差押えと本案訴訟の関係
仮差押えは、請求権の存在を最終的に確定する手続ではありません。
仮差押命令が発令されても、相手方が債務を争う場合には、売掛金請求、貸金返還請求、損害賠償請求などの本案訴訟を進める必要があります。
本案訴訟で勝訴判決等の債務名義を取得した後、仮差押えた財産に対する本差押え・強制執行を検討します。
仮差押えから自動的に金銭が支払われるわけではありません。
仮差押え、本案訴訟、強制執行を一連の回収手続として設計する必要があります。
仮差押えを申し立てられた方へ
預金、不動産、売掛金などについて仮差押命令が発令された場合には、保全異議、保全取消し、解放金の供託などを検討できる場合があります。
また、本案訴訟で請求の根拠や金額を争う必要があります。
裁判所から届いた決定書、申立書、証拠その他の書類一式をお持ちのうえ、ご相談ください。
東京渋谷法律事務所の対応
仮差押えと訴訟を一体として検討します
仮差押えだけを目的とするのではなく、本案訴訟での主張・立証、判決取得後の強制執行まで見通して対応方針を検討します。
対象財産と費用対効果を検討します
預金、不動産、売掛金などについて、特定可能性、見込まれる価値、担保、申立費用、相手方の倒産リスクなどを比較します。
仮差押えを行う法的可能性があっても、費用や担保に対して回収見込みが低い場合には、その点を率直にご説明します。
仮差押えを受けた側からの相談にも対応します
債権者側からの仮差押え申立てだけでなく、預金、不動産、売掛金などを仮差押えされた企業・事業者・個人からのご相談にも対応しています。
決定内容、請求の根拠、事業への影響を確認し、不服申立て、本案訴訟、和解交渉などを検討します。
法律相談の際にお持ちいただきたい資料
- 契約書、発注書、注文書
- 見積書、納品書、請求書
- 相手方とのメール、チャット、議事録
- 入金状況が分かる通帳・取引明細
- 催告書、内容証明郵便
- 相手方の会社情報・登記事項証明書
- 対象財産に関する資料
- 相手方の経営状況や財産処分を示す資料
- 既に訴訟を提起している場合は訴訟書類一式
- 仮差押えを受けた場合は裁判所から届いた書類一式
資料がすべてそろっていなくても相談は可能です。
ただし、仮差押えは準備と判断に時間を要するため、できるだけ早い段階でご相談ください。
初回無料相談のご案内
企業・事業者の債権回収、仮差押え、企業間紛争に関する初回法律相談は無料です。
仮差押えの可否は、請求の根拠、証拠、対象財産、保全の必要性、担保などを確認したうえで判断します。
相談を受けたからといって、仮差押えの申立てを必ずお勧めするものではありません。
相談予約電話:
0120-777-811
電話受付時間:平日10時~17時
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