従業員から残業代請求の通知が届いた場合の対応
最近、従業員や元従業員からの残業代請求があったという御相談が非常に多いです。
当事務所が企業側でご対応する案件も、従業員や元従業員からの残業代(時間外手当・割増賃金)請求の件数が多くなっております。
しかも、経営者が「きちんと支払っている」つもりであっても、法律や裁判所の見解に照らすと、そうはいえなくなってしまうケースが多いです。
従業員に弁護士が代理人として就いて残業代を請求する場合、一人の請求額が100万円や200万円を超えるケースも珍しくありません。
突然届いた弁護士からの内容証明郵便にこのような高額な記載があって、驚いて相談に来る経営者もいらっしゃいます。
「なぜ残業代がこんなに高額になるのか?」
従業員に残業をさせた上で、残業代を全く支払うつもりがない会社というものの存在するとは思いますが、当事務所にご相談が多いのは「残業代は支払っていたつもりなんですが・・・」という会社の御相談です。
なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか?
その原因のほとんどは、固定残業代規定の不備です。
多くの会社では、基本給のほかに、業務手当等の名称の手当てが支払われていることがあります。
これは会社側としては、固定残業代の趣旨で支給しているものです。
しかし、固定残業代での支給であれば、以下の内容をチェックしてみてください。
・36協定を締結しているか
・固定残業代で想定される残業時間が算出可能か(所定労働時間の取り決めや、基礎賃金の算出が可能か?)
・固定残業代に含まれる残業時間が36協定の範囲内か
いかがでしょうか?
裁判例では、固定残業代として認められるためには、
・通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金部分とを判別できること
・固定残業代の割増賃金相当部分が法定の割増賃金額の額を下回らないこと
が必要とされています。
実際には、かなりハードルが高く、専門家の意見もきいて整備しなければ固定残業代の制度を設定することは困難です。
そのため、当事務所としては、所定労働時間や基本給などの基本条件を定め、残業代はタイムカードに従って算出された金額を面倒でも計算して支給する、という方法をお勧めしています。
固定残業代は不備があった場合に、会社が被るダメージが大きすぎるのです。
例えば、
・月間の所定労働時間が160時間
・基本給20万円
・業務手当5万円
という会社ですと、業務手当が固定残業と認められば、20万円÷160時間で、基礎時給は1250円となります。
しかし、もし不備があり、業務手当が固定残業でないとされてしまうと、業務手当が通常の給料に含まれてしまうので、(20万円+5万円)÷160時間で、基礎時給が1562円と残業代計算の基礎となる時給単価が上がってしまいます。しかも、残業代を支払っていたことにならないので、未払い残業代は跳ね上がってしまいます。
残業代請求の時効は3年(2020年4月に改正)ですので、3年分の請求を受けることがあるのです。
従業員から残業代請求があった場合には、もちろんすぐにご相談いただきたいのですが、そうでなくても、今の給与体系等に問題がないかという点についてご不安がある経営者には、是非一度ご相談いただければと思います。