家庭裁判所の遺産分割調停について
遺産分割調停の当事者
相続人間での話し合いで遺産分割協議が整わない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停の申し立てをおこないます。
相続人であれば申立人が複数になっても構いません(同じ考えの相続人で共同して申し立てをおこなう)。
しかし、申立人以外の相続人全員を相手方とする必要があります。
つまり相続人全員が、「申立人」または「相手方」のいずれかの立場で当事者になることが必要です。
どこの家庭裁判所が管轄になるのか?
調停の場合は相手方の住所地、または相手方と合意した家庭裁判所です。相手方と合意した場合には管轄合意書を取り交わして提出します。
なお、審判の場合は相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所です。
申立てに必要な手数料
家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てる際には、被相続人(亡くなられた方)1人につき1200円分の収入印紙と、所定の郵便切手を予納することが必要です。
特に郵便切手は、裁判所ごとに取り扱いが異なっていたり、変更されることもあるので、詳しくは家庭裁判所の受付窓口で確認した方が良いでしょう。
申立てに必要な書類
申立て時の提出書類は以下のものが必要になります。
-
- 申立書(当事者目録及び遺産目録を含む)
- 事情説明書
- 連絡先等の届出書
- 進行に関する照会回答書
- 戸籍(被相続人の出生時から死亡時までの連続した全戸籍謄本、相続人全員の現在戸籍謄本など。法定相続情報一覧図の写しの提出でも可能です)
- 当事者と被相続人の住民票又は戸籍附票
- 遺産に不動産がある場合は不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書
- 遺産に関する資料 預貯金の通帳、取引履歴の写し、有価証券等の取引口座の残高報告書の写し、その他遺産の内容や評価額が分かる資料の写し
その他にも相続に関連する書類が必要になることがあります。必要部数は家庭裁判所の指示に従ってください。
弁護士に調停手続を依頼すると、申立書類等は弁護士が作成し、戸籍等の書類も弁護士が取り寄せることが可能となり、当事者の方のご負担を軽減することができます。
遺産分割調停はどのようにおこなわれるのか
調停では、担当裁判官と調停委員で構成される「調停委員会」が中立の立場で各当事者から話を聴いたり、資料の提出を促したりして手続を進めます。
調停は非公開となっています。
調停がおこなわれる日を「期日」といいます。
調停は平日の昼間に行われ、当事者や代理人以外の人が調停期日に出席することはできません。
申立人と相手方は別々の待合室で待機し、調停委員が各当事者の話を交互に(同時の場合もあります)聴きます。
遺産分割調停の進行
家庭裁判所で遺産分割調停をおこなう場合は、次のように段階的に進められていきます。
1 相続人の範囲確定
2 遺産の範囲の確定
3 遺産評価の確定
4 各相続人の取得額の確定
5 遺産分割方法
遺産分割調停を申し立てる前には、それまでの協議の内容等を踏まえて、どの段階で争点が発生するのかを事前に見極めておくことも重要です。
1 相続人の範囲確定について
相続人の範囲確定というのは、誰が相続人なのかということを確定することです。
通常は戸籍謄本で法定相続人を確定できます。
しかし、「養子縁組が無効だ!」として、戸籍上は法定相続人であっても、そのことについて争いがある場合には、遺産分割調停では相続人の範囲を確定できないことになります。
そのため、別途、養子縁組無効の裁判等の人事訴訟で解決する必要があります。
そして、解決後に遺産分割調停をおこないます。
2 遺産の範囲の確定
次に遺産の範囲を確定します。「何を分けるのか」ということが問題になります。
これも実務上は紛争になることが多いです。
何が遺産の範囲になるのか争いがあり、調停で範囲について合意することができないときは、遺産分割調停を取り下げて、地方裁判所で遺産の範囲に含まれることの確認訴訟を提起します。
実務上で注意が必要なのは、遺産分割「調停」であれば当事者の合意で遺産の範囲に含めることができても、「審判」になってしまうと含まれないものがあることです。
例えば、負債、葬儀費用などは、調停であれば当事者全員が合意すれば遺産の範囲に含めることができますが、審判では当事者全員が希望しても含めることができません。
しかし、相続不動産を貸すことによって得た賃料や、株式の配当金等は、当事者全員が合意すれば、調停でも審判でも遺産の範囲に含めることができます。
3 遺産評価の確定
遺産の範囲が確定すれば、その遺産の評価額を決めます。
不動産については、不動産会社の査定書等を提出したり、場合によっては鑑定をおこないます。
鑑定には数十万円の費用がかかりますので、できれば査定書等をベースに決定できれば、当事者の負担も軽くて済みます。
株式などは相続税の申告書における評価を用いることも多いです。
評価が必要なのに、評価の合意も鑑定も拒否ということですと、遺産分割調停はできないことになります。
4 各相続人の取得額の確定
以上の経過で、相続人が誰で、相続財産が特定され、その価額も決まった場合には、個々の相続人の取得額を決めることになります。
寄与分が問題になる場合には、相続分に加算
特別受益が問題になる場合には、相続財産に持ち戻し
ということになります。
しかし、寄与分や特別受益の有無等に争いがある場合には、別途これらを定めるための調停または審判をおこなう必要があります。
5 遺産の分割方法の確定
4で各相続人の取得額が確定しているので、実際にどのように分けるのかを確定します。
遺産の分割方法には、
・現物分割 その物を分ける方法
・代償分割 物を分けるが、差額を金銭調整すること
・換価分割 売却して金銭を分配すること
などがあります。
以上の争点について合意できれば、調停成立となり、遺産分割協議が成立します。
分割方法について合意が整わない場合には、審判に移行するのが原則ですが、前提となる争点について争いがあったり、資料が不足している場合には、審判ができないので移行しないて調停が打ち切りになることもあります。
一般の方の感覚からすると、「遺産分割調停であればすべての問題を解決できる」と感じるかもしれませんが、争点によっては、調停ではなく訴訟等で解決しなければならない問題もあります。
遺産分割でお困りのことがあれば、相続問題に強い東京渋谷法律事務所の弁護士にご相談ください。