建物の賃貸借契約では、契約期間が満了した後も賃貸借が継続することがあります。
その方法には、大きく分けて「合意更新」と「法定更新」があります。
どちらも賃貸借契約が継続する点では同じですが、
更新の根拠、更新後の契約期間、更新料の取扱いなどに重要な違いがあります。
特に賃貸人(オーナー)の立場では、契約が法定更新になることによって、
その後の契約関係に影響が生じることがあります。
ここでは、普通建物賃貸借契約を前提として、合意更新と法定更新の違いを解説します。
合意更新とは
合意更新とは、賃貸人と賃借人の合意によって賃貸借契約を更新することです。
例えば、契約期間が2年間とされている場合に、期間満了時に更新契約書や覚書を取り交わし、
「さらに2年間、従前と同じ条件で契約を継続する」と合意する場合が典型例です。
自動更新も合意更新の一種です
賃貸借契約書には、例えば次のような条項が設けられていることがあります。
「期間満了日の○か月前までに当事者のいずれからも更新しない旨の通知がない場合、
本契約は同一条件でさらに2年間更新されるものとする。」
このような契約を一般に「自動更新」と呼びます。
期間満了時に改めて更新契約書を作成していなくても、
当初の契約時に自動更新について合意しているため、
契約上の合意に基づく更新の一種と考えられます。
ポイント
「更新契約書を作成した場合」だけが合意更新ではありません。
契約書の自動更新条項に基づいて更新された場合も、通常は合意更新の一種です。
法定更新とは
これに対して法定更新とは、当事者が更新契約を締結したからではなく、
借地借家法の規定によって賃貸借契約が更新されたものとみなされる制度です。
借地借家法26条1項では、期間の定めのある建物賃貸借について、当事者が
契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、
- 更新をしない旨の通知
- 条件を変更しなければ更新しない旨の通知
をしなかった場合には、従前の契約と同一条件で契約を更新したものとみなすと定められています。
つまり、更新契約書を作成していなくても、一定の場合には法律によって賃貸借契約が継続します。
これが「法定更新」です。
合意更新と法定更新の違い
合意更新と法定更新の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 合意更新 | 法定更新 |
|---|---|---|
| 更新の根拠 | 賃貸人・賃借人の合意 | 借地借家法26条 |
| 更新契約書 | 作成する場合も、自動更新の場合もある | 必要なし |
| 更新後の期間 | 合意した期間 | 期間の定めなし |
| 従前の契約条件 | 合意した内容による | 原則として従前と同一 |
| 更新料 | 契約条項等による | 契約条項の解釈が特に問題となる |
最も大きな違いは「更新後の契約期間」
合意更新と法定更新の重要な違いの一つが、更新後の契約期間です。
例えば、従前の契約期間が「2年間」であったとしても、
法定更新された場合に再び2年間の契約になるわけではありません。
法定更新後の契約は「期間の定めのない賃貸借契約」になります。
借地借家法26条1項は、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす一方で、
契約期間については「定めがないもの」としています。
これは、特に賃貸人にとって重要なポイントです。
更新契約書を作成しなければ必ず法定更新になるのか
よくある誤解として、
「更新契約書を取り交わさなければ法定更新になる」
というものがあります。
しかし、必ずしもそうではありません。
例えば、当初の賃貸借契約書に自動更新条項があり、その条項に従って一定期間更新される場合には、
更新契約書を改めて作成しなくても、
契約上の合意に基づいて更新されたと評価されることがあります。
確認すべき点
合意更新か法定更新かは、単に「更新契約書を作成したかどうか」だけでは判断できません。
まず、現在の賃貸借契約書にどのような更新条項が設けられているかを確認する必要があります。
賃貸人が「更新しない」と通知すれば契約は終了するのか
普通建物賃貸借では、賃貸人が単に
「次回は更新しません」
と通知しただけで、当然に契約が終了するわけではありません。
賃貸人が更新を拒絶する場合には、借地借家法26条により、原則として
期間満了の1年前から6か月前までの間に通知する必要があります。
さらに重要なのが、借地借家法28条の「正当事由」です。
賃貸人による更新拒絶が認められるかどうかについては、例えば、
- 賃貸人が建物を使用する必要性
- 賃借人が建物を使用する必要性
- 賃貸借契約締結から現在までの経緯
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 立退料など財産上の給付の申出
などを総合的に考慮して判断されます。
普通建物賃貸借では、「契約期間が満了した」という理由だけで
賃借人に退去を求めることはできません。
法定更新後に賃貸人から解約することはできるのか
法定更新後は、期間の定めのない賃貸借契約となります。
もっとも、期間の定めがなくなったからといって、
賃貸人がいつでも自由に契約を終了できるわけではありません。
賃貸人から建物賃貸借契約の解約を申し入れた場合、
借地借家法27条により、原則として
解約申入れの日から6か月が経過することが必要です。
さらに、賃貸人からの解約申入れについても、
借地借家法28条の正当事由が必要となります。
したがって、
法定更新の場合にも更新料を請求できるのか
実務上、トラブルになりやすいのが更新料です。
合意更新の場合には、契約書に有効な更新料条項があり、
その条項に従って更新が行われるのであれば、更新料の支払義務が生じることがあります。
これに対して、法定更新の場合には注意が必要です。
例えば契約書に、
「契約を更新する場合には、賃借人は新賃料の1か月分を更新料として支払う。」
とだけ記載されている場合、
この条項が合意更新だけを想定しているのか、
法定更新の場合まで含むのかが問題となります。
裁判例でも、契約条項の内容によっては、
法定更新時の更新料請求を認めなかったものがあります。
一方、契約書に法定更新の場合にも更新料等を支払うことが明確に定められている場合などには、
支払義務が認められる可能性があります。
更新料についての注意
「法定更新なら更新料は必ず不要」とも、
「契約書に更新料と書いてあるから法定更新でも必ず請求できる」とも一概にはいえません。
契約書の具体的な文言や契約締結の経緯などを確認する必要があります。
期間満了後も賃借人が使用を続けている場合
賃貸人が更新拒絶の通知をした場合でも、それだけで十分とは限りません。
契約期間満了後も賃借人が建物の使用を継続しているにもかかわらず、
賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合には、
借地借家法26条2項により法定更新が成立することがあります。
そのため、賃貸人が契約終了を求める場合には、
- 更新拒絶通知の時期
- 通知の内容
- 正当事由の有無
- 契約期間満了後の対応
- 賃料を受領する場合の対応
などを一体として検討する必要があります。
定期建物賃貸借契約の場合は取扱いが異なります
ここまで説明した法定更新のルールは、主として
普通建物賃貸借契約についてのものです。
これに対して、借地借家法38条に基づく
定期建物賃貸借契約(定期借家契約)では、
契約の更新がないことを前提として契約を締結します。
有効な定期建物賃貸借契約であれば、原則として期間満了によって契約が終了し、
普通建物賃貸借のような法定更新はありません。
もっとも、定期建物賃貸借契約としての効力が認められるためには、
法律上定められた方式を満たしている必要があります。
注意
契約書に「定期借家契約」と記載されているだけで、
当然に期間満了による終了が認められるとは限りません。
契約締結時の書面や手続についても確認する必要があります。
賃貸人が確認しておきたいポイント
賃貸借契約の更新を検討する際には、単に契約書の「契約期間」だけを見るのではなく、
次の点を確認する必要があります。
- 現在の契約が普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か
- 契約書に自動更新条項があるか
- 更新後の期間がどのように定められているか
- 更新料についてどのような条項があるか
- 更新拒絶通知をいつまでに行う必要があるか
- 更新拒絶または解約申入れについて正当事由が認められるか
- すでに法定更新され、期間の定めのない契約になっていないか
特に、建物の建替え、自己使用、売却、賃料条件の見直しなどを検討している場合には、
契約期間満了の直前になってから対応を始めると、選択肢が大きく制限されることがあります。
まとめ|合意更新と法定更新では更新後の契約関係が異なります
合意更新
賃貸人と賃借人の合意に基づく更新です。
自動更新条項による更新も、通常は合意更新の一種です。
更新後も、契約で定めた期間が設定されるのが一般的です。
法定更新
借地借家法26条によって法律上更新されたものとみなされる制度です。
従前の契約条件は原則として引き継がれますが、
契約期間については「期間の定めのないもの」となります。
賃貸人にとっては、合意更新か法定更新かによって、
その後の契約関係や更新料の取扱いなどが変わる可能性があります。
また、賃貸人から更新を拒絶したり、法定更新後の契約を終了させたりするためには、
単なる通知だけでは足りず、借地借家法上の正当事由が問題となります。
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東京渋谷法律事務所では、建物オーナー・賃貸人の方から、
賃貸借契約の賃料増額請求、明渡請求、更新拒絶、立退きなどのご相談をお受けしています。
契約期間の満了が近づいている場合には、対応できる時期に法律上の制約があります。
できるだけ早い段階で契約書を確認し、今後の対応を検討することが重要です。
