賃料増額請求と不動産鑑定

不動産オーナー・賃貸人の方へ

賃料増額請求と不動産鑑定

賃料増額請求を検討すると、
「不動産鑑定を取らないと増額できないのか」
「最初から不動産鑑定士に依頼した方がよいのか」
という疑問が生じます。

最初から正式な不動産鑑定が必要とは限りません

重要なのは、
「鑑定をするかしないか」ではなく、
「どの段階で、どの程度の専門資料を用意するか」

です。

周辺の募集賃料だけで適正賃料が決まるわけではありません

例えば、
「同じビルの新規募集賃料が坪2万円なのに、既存テナントは坪1万円しか支払っていない」
というケースがあります。

しかし、既に継続している賃貸借契約の適正賃料は、新規に貸し出す場合の募集賃料と必ずしも同じになるわけではありません。

現在の賃料が決められた経緯、過去の賃料改定、契約期間、その後の経済事情なども考慮する必要があります。

不動産鑑定では何を検討するのか

適正な継続賃料を評価する際には、対象物件や契約内容に応じてさまざまな要素を検討します。

  • 現在の賃料
  • 土地・建物の価格
  • 必要諸経費
  • 利回り
  • 経済指標の変動
  • 周辺の賃料水準
  • 過去の賃料改定
  • 契約締結・賃料決定の経緯

したがって、不動産鑑定は単に「近隣物件の平均賃料」を算出する作業ではありません。

いつ不動産鑑定を依頼するべきか

交渉前に取得する

専門家による評価を把握した上で、増額額を決めて交渉する方法です。

 

調停で必要性を検討する

相手方の主張や調停委員会の意見を確認してから専門資料を取得する方法です。

 

訴訟で裁判所鑑定を行う

適正賃料が争点となった段階で、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定を行う方法です。

最初から正式な鑑定を取らないという選択肢

不動産鑑定には相応の費用がかかります。

そのため、想定される増額幅が小さい案件について、最初から高額な正式鑑定を取得すると、経済的なメリットが小さくなることがあります。

考え方の例月額2万円の増額が見込まれる場合、年間の増額効果は24万円です。

これに対し、多額の鑑定費用を先行して支出することが本当に合理的かは検討する必要があります。

鑑定費用はどのくらいかかる?

不動産鑑定の費用は一律ではなく、物件の種類・規模、鑑定内容、調査の難易度などによって異なります。

賃料の正式な鑑定では、数十万円程度の費用を要することがあります。

また、訴訟で裁判所鑑定を行う場合にも、原則として鑑定費用の予納が必要になります。

鑑定費用だけで判断しないことも重要です。月額10万円の増額が10年間継続するのであれば、単純計算では増額効果は1,200万円です。
その場合、数十万円の鑑定費用をかける経済的合理性は月額2万円の案件とは異なります。

私的鑑定と裁判所鑑定の違い

当事者が依頼する鑑定・意見書

賃貸人が不動産鑑定士に依頼し、鑑定評価書や意見書を作成してもらいます。

交渉・調停・訴訟の資料として利用できます。

 

裁判所鑑定

訴訟の中で裁判所が鑑定人を選任し、適正賃料について鑑定を行います。

中立的な専門家による評価として裁判所の判断に重要な影響を与えます。

裁判所鑑定の費用は誰が負担する?

裁判所鑑定を実施する場合には、通常、まず鑑定費用を裁判所に予納する必要があります。

ただし、予納した当事者が最終的に必ず全額を負担するとは限りません。
裁判所鑑定の費用は訴訟費用の問題となり、
最終的な負担については判決等で判断されます。

鑑定前に和解することもあります

賃料増額訴訟を提起したからといって、必ず鑑定を実施し、判決まで進まなければならないわけではありません。

争点を整理した結果、
「鑑定費用をかけて判決まで争うより、
一定額で合意した方が双方にとって合理的」
と判断できるケースもあります。

反対に、鑑定を実施した後、鑑定結果を前提として和解に至る場合もあります。

訴訟 = 鑑定 = 判決、ではありません

事件の規模、想定増額額、鑑定費用、解決までの期間などを比較しながら、その都度合理的な解決方法を検討します。

弁護士と不動産鑑定士の役割

弁護士

  • 増額請求の法的要件の検討
  • 増額通知
  • 賃借人との交渉
  • 民事調停・訴訟
  • 主張・立証の組立て
  • 和解条件の検討

不動産鑑定士

  • 適正賃料の経済的評価
  • 継続賃料の算定
  • 鑑定評価書の作成
  • 専門的意見書の作成

重要なのは鑑定そのものではなく「費用対効果」です

賃料増額請求を検討するときは、まず次の事項を整理します。

  1. 現在の賃料はいくらか
  2. どの程度の増額が見込めるか
  3. 今後どの程度の期間、増額効果が続くか
  4. 相手方が交渉に応じる可能性はあるか
  5. 弁護士費用はいくらか
  6. 鑑定費用はいくらか

その上で、交渉段階では通常の資料で進めるのか、専門家の意見書を取得するのか、正式な鑑定まで行うのかを判断します。

鑑定を依頼する前の段階からご相談ください

東京渋谷法律事務所では、賃料増額の可能性、想定される増額幅、弁護士費用・鑑定費用などを踏まえ、手続の費用対効果についても検討します。